平成21年4月1日から平成21年5月31日、こども科学館4階展示室に復活します。

(ガラスのショーケースで展示した補助投影機や本機付き星座絵投影機などは一部省略します。)

 

MS10投影機のメカニズムをご紹介しながら手動解説を行うMS10メカ紹介は、5月4日、5月30日に開催予定です。

 


プラネタリウム投影機に興味のある方のために展示パネルのweb版を作ります。

 


はじめに

 美しい星空に出会うと心安らぎ、またその物語を知ると心豊かになり、宇宙のしくみを知ると心はずむ。

 プラネタリウムは街のオアシス。

 星空に感動することはあっても、プラネタリウムの仕組みに興味を抱くことはあまりありません。

 プラネタリウムは星空を博物館に再現したいと願った人の努力で生まれました。

 その仕組みを知ると別の感動があります。

 そしてプラネタリウムのメカニズムから天体の仕組みを知ることもできます。

 ここに展示したプラネタリウム投映機は、当館のMS10型投映機と同じものです。

 事情があって閉館したプラネタリウムから当館の投映機保守のために頂いたものです。

 投映機を分解してはじめて、そのメカニズムのすばらしさ、開発者の工夫を知りました。

 この展示を通してその感動を知っていただければ幸いです。

 

投影?投映? プラネタリウム業界では星や映像を映すことをトウエイと言い、よく投映と書きます。国語辞典で「とうえい」を引くと、投影という文字が充てられています。が、プラネタリウムの映写機は、星を映す機械であって、影を映しているのではありません。それでこの特別展では投映という文字を使いました。
 また、投映器か投映機か。電球とレンズだけで構成されているような簡単な器具の場合は器という文字を使って投映器と書きました。惑星投映機のように歯車のようなメカが搭載さえているものは投映機と書きました。

 


プラネタリウムができるまで

 プラネタリウムって、暗くしたドームスクリーンに星を映して昼間でも星が見えるところですね。しかし、現在のようなプラネタリウムができたのは1923年でした。

 惑星を英語で「planet」といいますが、プラネタリウムとはもともと惑星の位置や運行を示す時計のような模型でした。そして星空を映す機能が合体してプラネタリウムができました。

★星を表す

 夜空を球体に見立て、星の位置を示したものが天球儀です。最も古い天球儀はBC600年ごろにタレスが作ったものだといわれ、BC350年ごろにエウドクソスが作った天球儀には赤道のほかに黄道、45個の星座、北回帰線などが描かれていたという。

 17世紀になると人が入れるほどの大きな天球儀が作られ、ゴットルプ城に作られたものは直径3.1メートルの球体の内側に星座が描かれ、中に12人が入って、24時間で1回転する仕掛けでした。

 1913年にアメリカで作られたアトウッド天球儀は、直径4.5メートルの鉄板でできた球に692個の孔をあけて星空を表現しました。

●惑星を表す

 古代ギリシャの天文学者、アルキメデスの天球儀には、地球・太陽・月の動きを歯車で表したそうです。

月や惑星の運行を精密に表す機械は300年ほど前から作られ始め、18世紀にイギリスのオーラリー卿が作らせた時計は、昼と夜の区別、季節の変化、その日の月の形、日食や月食、惑星の動きなどを表現できました。このような時計仕掛けで惑星の動き等を表すものをオーラリーとよびます。

オーラリーの最大のものはオランダの羊毛業者、アイゼ・アイジンガーが自宅の天井に太陽系の惑星の運行を示すために作った仕掛けです。

■プラネタリウムの誕生

 ミュンヘンにあるドイツ博物館では、惑星の動きと星を見せる装置を作ることが計画され、1913年に装置の製作がカールツァイス社に依頼されました。惑星の運行をあらわす装置は直径12メートルのものが製作されました。星を見せる装置は直径10メートルの金属球に星を示す孔をあけて中に人が入って星空を見るというものが考案されました。が、同社のバウワースフェルト博士らは惑星も星もスクリーンに投影すればよいということに気づいたのです。

これによって作られたのがツァイスT型投影機です。

 ツァイスT型は1923年8月に完成、6等星を含む4500個の星を映せました。カールツァイス社の屋上に設置された10メートルのドームで公開されたあと、1925年から1960年までドイツ博物館で使用されました。

 ツァイスT型は、突起の先にレンズが付いていて200Wの電球で照らされた恒星原版の映像をドームに映します。下に付けられた円柱状の部分は惑星投影機です。天の川や月の満ち欠け、日周運動、年周運動も表現できました。

 改良されたツァイスU型投影機は、恒星を映す恒星球を南北に分けて間に惑星を映す装置を配置し、緯度変化ができるようになりました。現代のプラネタリウムの原型がこれで完成しました。緯度変化ができるので世界中に普及し、昭和12年には大阪市電気科学館に日本で最初のプラネタリウムが開館しました。

 

 


 MS10型投映機は、1966年にミノルタプラネタリウムが製作した光学式プラネタリウム投映機です。直径10mのドームに対応するように設計された機械で、6.25等星まで、約6000個の星を映せます。MS10型は、1966年から1994年まで57台生産された機械で、2005年現在日本で41台、アメリカで5台活躍しています。当館のものは1981年に設置された20号機、MS10-AT型で、自動投影対応のMS10としては最初の機械です。

調べてみると、2008年現在では日本で稼動しているMS10はもう少し少ないようです。

 MS10は、ツァイスU型と同じように星を映す南北の恒星球の間に惑星投映機を配置したツァイス型の光学式プラネタリウムです。ドームの大きさに合わせてMS-6からMS-20まで姉妹機があります。

 

●MS-10のなかま   ドーム直径6mから20mに対応するように6種類あります。

    恒星数        星雲星団
MS- 6 約3100(5.65等まで)  3個
MS- 8 約3500(5.75等まで)  5個
MS-10  約6200(6.25等まで)  9個
MS-15  約8900(6.55等まで)  12個
MS-18  約8900(6.55等まで)  12個
MS-20 約13500 (6.9等まで)   12個

恒星、星、惑星。 たなばたの星やオリオン座など、星座を作っている星は太陽のように自ら光る星です。これを恒星といいます。夜空を見上げて、他に肉眼で見える星は惑星です。惑星は太陽のまわりを回っているので位置が変わります。プラネタリウムでは恒星と惑星を別に映します。

 

星を映すための3つの形式

   ピンホール式 中央に置いた電球のフィラメントから出た光が、周囲のカバーに開けられた孔を通してスクリーンに映ります。明るい星ほど大きな孔をあけているので、星は大きく映ります。和歌山天文館で活躍していた金子式投映機はピンホール式です。簡単なしくみですから豆電球とボール紙で工作できます。

ピンホール式は最も簡単なもので自作もできるほどです。

プラネタリウムを作ろう ・・・ピンホール式プラネタリウムの作り方です。

和歌山市立こども科学館にはかつて「和歌山天文館」で使われていたピンホール式の投影機も展示しています。

     
   光学式プラネタリウム 星の配列に合わせて孔をあけた恒星原版に光をあて、レンズでスクリーンに投影します。最初のプラネタリウム、ツァイスT型やMS-10もこの方式です。映し出される星は小さくて本物の星空に最も近い美しい星空を映せます。
     
   デジタルプラネタリウム コンピューターで作った映像をデジタルプロジェクターで映します。2008年現在、ドームスクリーンを4000x4000ピクセルの解像度で投映するシステムが最新のものですが、映しだされた星は光学式プラネタリウムに比べればぼんやりとしています。恒星原版にあたるものが無いので、地球から見た星空だけでなく、様々な視点での宇宙映像を映せます。
     

 

 


光学式プラネタリウムでは、星の配列を記録した恒星原版を使います。電球の光は、コンデンサーレンズ、恒星原版、レンズを通ってスクリーンに映ります。

 

 

 

マメコンは小さな凸レンズです。1等星はさらに明るく映せるように、直径2mmほどの小さなレンズで光を恒星原版の孔へ導きます。接着剤が劣化して濁ってくると、星が暗くなります。アンタレスのように色が目立つ星にはフィルターが付けられています。

恒星原版は、星を映すもとになるものです。天球を32のエリアの分け、それぞれのエリアで星の位置と明るさに合わせて作られます。和歌山市立こども科学館のMS-10に使っている恒星原版は、直径55mm。シンチュウの薄い板に超精密ドリルで小さな孔が開けられています。暗い星は小さな孔、明るい星ほど大きな孔になっていて、6等星は0.006mm、1等星は0.1mmの大きさです。最近のプラネタリウムでは、耐熱ガラスに金属の膜を蒸着させて、レーザーで小さな孔を開けているそうです。

恒星原版 厚さ0.05mmのシンチュウの円盤に星の孔をあけています。1等星には光をさらに集めるための豆コンがついています。

それぞれの原版には星座のどの部分かを説明しました。ルーペをつけていますので、すばるなどぜひごらんください。

 

星を映すところは恒星球といいます。

恒星球の中です。中央に500ワットのハロゲンランプがあって、光らせるととてもまぶしく、熱くなります。金網は、モーター仕掛けで回転して、星がきらめくようにするしくみです。電球の熱を逃がすために冷却ファンが2個ついていますが、投影中はとても熱くなって恒星球を素手でさわれません。

 

恒星を映すしくみの図

左から  500ワットの電球  コンデンサーレンズ(3枚)  恒星原版  恒星シャッター  アストロロッコールレンズ  スクリーンに映ったさそり座

 

 

●こらむ 下に映らない工夫

 星や太陽などが水平より下向きに映ってしまうと、お客様の目に強い光が入って観覧の妨げになります。これを防ぐためにいろいろな仕掛けが施されています。

恒星シャッター

  下に写らないくふう その1 恒星シャッター

恒星球のレンズの後ろに恒星シャッターがあります。プラネタリウムが回転してもシャッターは常に下向きの光を隠すように錘などが調整されています。

左の黒い部分は、恒星を映すレンズの部分を一つだけ取り出したものです。

黒いものの中心に恒星投影レンズがあります。右上のおわんのようなものは恒星シャッターです。

恒星シャッターは、ベアリングなどで動くときに摩擦が少なくなっていて、よく調整されたバランスで、どのような向きになっても黒いおわんの部分がレンズの裏側上方を隠すようにできています。それで、星が下に映るのを防ぎます。

すべての恒星投影レンズについています。

展示では、ハンドルを回してレンズの向きを変えることができました。

 

水銀スイッチ 

星座絵投映器、惑星投映機、ブライトスター投映器のように小型のものには水銀スイッチが付いています。投映器が水平より下に向くと、水銀スイッチの中の水銀が動いて電気が切れるようになっています。

 

可動シャッター 赤道投映器と黄道投映器にはそれぞれのレンズの前に錘で動く可動式のシャッターが付いています。

 

天の川投映器 二重のガラスの間に水銀が入っていて、水平より下に向く光をさえぎっています。

 


 

 

 惑星棚の展示

 惑星棚とよばれる部分に太陽、月と、肉眼で見える5つの惑星の投映機が収められています。それぞれの投映機は非常に複雑なメカニズムで動いて、地球から見て太陽や惑星が夜空に見える位置を正確に表します。

左はMS10の南側についている惑星棚です。この部分には水星、金星、火星、木星がついています。

年周のドライブシャフトを手で回して上の惑星投影機の動きを確かめることができます。

 

火星の動きを例にとると。

惑星棚には次の4つのことが表現できるような工夫がされています。
 1、惑星はそれぞれ太陽の周りを回る速さがちがう。
 2、地球から見ると、惑星の動きが逆戻りするように見える逆行という現象がある。
 3、惑星の軌道は地球の軌道に対して傾いている。
 4、水星や火星は軌道の離心率が大きい。

 

 

 

 

 

●太陽と惑星投映器はそれぞれ2本ついています。これは、投映器から出た光線が惑星棚の金属棒にさえぎられて映像が暗くなることを防ぐためです。投映器のレンズは変心していて、2本の投映器の映像がずれている場合は、ここを回して調整できます。

 

  もうひとつの惑星棚です。

赤い矢印が年周ドライブシャフトで、これを手で回すと緑色矢印の月投影機や黄色矢印の太陽投影機がうごきます。

 


 

 

 プラネタリウムは地球から見た太陽、月、惑星、恒星の見かけの動きを再現するために、モーターで4つの回転を行います。

日周運動 地球の自転が原因でおこる天体の1日の動きを表します。太陽が東から昇って西に沈んだり、星空が天の北極を中心にして回転することなどを表現できます。

年周運動 地球の公転が原因でおこる太陽や惑星の位置の変化を表します。太陽はほとんど同じ速さで動くように見えるのですが、惑星は止まったり逆向きに動くことがあります。また、月が地球のまわりを回って形が変化することも映します。

才差運動 地球の自転軸の向きが25800年の周期で変化することによる天体の見え方を表します。古代エジプトの時代には北極星はりゅう座α星であったことや、12000年後にはベガ(おりひめ)が北極星になることなど、過去や未来の星空を表すことができます。

緯度変化 和歌山の緯度は北緯34.2度ですから、日周運動の回転軸は34.2度傾いています。この角度を変えるとハワイやオーストラリアなど任意の場所での天体の動きを表現できます。

回転架台 これら天体の動きの再現に必要な4つの運動に加えて、プラネタリウムの架台ごと水平に回転できます。スクリーンの正面を北にとったり、自動投映で演出に使ったりします。

●モーターの近くにあるシンクロ発信機は、モーターの回転角度の信号をコンソールの制御回路へ送るものです。コンソールにあるコンピューターはこの信号で本機がどのような位置にあるか把握し、自動投映を行ったりします。

 


 

 プラネタリウムはぐるぐる回転します。電球やモーターに電気を送るために電線でつなぐと、電線はからまって切れてしまいます。それで、スリップリングという金属のリングと接点がこすれて電気を送るしくみになっています。

日周スリップリングは、日周板についているもので最大のスリップリングです。

プラネタリウムはぐるぐるまわるので、電線で結んでいると、電線がもつれてしまいます。それで、スリップリンとという金属をこするようにして電気を送ります。

 

日周のスリップリングは、日周板に取り付けられている電気を送る装置で、MS10の中では直径64cmで最大のスリップリングです。24本のリングはシンチュウという金属を旋盤で円に削ったもので、クロムメッキが施されています。直径3.5mmの銅の棒がばねで押し当てられて接触して通電します。






緯度スリップリングはたくさんの円板(矢印A)でできています。Bのところに接点があります。



架台スリップリングを取り出して調整しているところ。2002年9月、ここが原因で漏電がおきていたので修理したときの写真です。


●こらむ スリップリングのごみ
 スイッチを入れても土星が映らないときがあります。ふつうは電球が切れているのですが、電球を交換しても映りません。ヒューズ切れでもないし...。こんなときはスリップリングの接触不良を疑います。年周を回してみると、案の定、土星が映りました。
 土星投映機への通電は、架台、緯度、日周、土星スリップリングを通ります。架台、緯度、日周は同じ場所を何度も往復して動かすことが多く、しかもスリップリングにはカバーがかかっていて汚れにくい構造になっています。しかし、年周で動く惑星のスリップリングは露出しているので埃が付きやすくなっています。接点がリングの上を過去から昨日の位置までこすってきましたが、たまたま今日の位置にごみが付いていて接触不良になったのでしょう。こんなときは、年周のモーターを回して接点をスリップリング上で何度か往復させてやると接触が戻ります。

 


 

プラネタリウムは市長もお気に入り → 和歌山市長のエッセイ・余談独談に市長のコメントがあります。


星空散歩特別編 MS10メカ紹介 平成20年8月17日(日)、8月24日(日)、8月31日(日)、10月5日(日)、10月12日(日)に行いました。

プラネタリウム投影機の年周運動や緯度変化などのモーションによる効果、薄明や座標、補助投影機の紹介を含めた手動投影「MS10メカ紹介」を行います。いずれも午後4時30分から約40分間の投影で、入館料だけでご覧いただけます。定員は先着100名。

8月17日の投影では次のようなことを投影してご紹介しました。

日周運動 → 太陽が沈んでやがて満天の星空になり、夏の星座や天の川が見えてくる。昼光、ブルーライト、夕焼け、夕薄明投影機使用。月も動く。

年周運動 → 黄道の上を太陽が動き、惑星や月も位置が変わることを見ていただきました。

緯度変化 → 子午線と天の赤道の交点で投影機の位置がわかる。地球の赤道では星や月が垂直に下に沈む。オーストラリアでは南十字や大小マゼラン銀河が見え、太陽は北を通る。北極圏では太陽は沈まない。

才差運動 → 才差モーターで恒星球だけが回転。北極星が天の北極からずれていく。5000年前(古代エジプトの頃)に合わすとりゅう座アルファ星が北極星になっていることを日周運動で見ました。また、その頃は和歌山市でも南十字星が見えていました。

またいつかこのような投影を行うこともあるかも。→星空散歩をご参照ください。

 


  4階展示室にあるピンホール式のプラネタリウムです。

高城武夫さんが作った和歌山天文館で使われていた金子式の投影機です。

  プラネタリウムのカタログは珍しいでしょう。
  補助投影機です。