自然 ―生物多様性の保全―  その法的根拠

 

 持続可能な社会は、環境を構成する大気、水、土壌、生物間の相互関係により形成される諸システムとの間に健全な関係を保ち、それらのシステムに悪影響を与えないことが必要です。このような状態を保っていくためには、社会経済活動を可能な限り、次のような方向に沿って営んでいくことが必要です。

     「再生可能な資源」は、長期的再生産が可能な範囲で利用されること

     「再生不可能な資源」は、他の物質やエネルギー源でその機能を代替できる範囲内で利用が行われること

     人間活動からの環境負荷の排出が環境の自浄能力の範囲内にとどめられること

     人間活動が生態系の機能を維持できる範囲内で行われること

     種や地域個体群の絶滅など不可逆的な生物多様性の減少を回避すること

                (以上は、環境基本計画.平成12年閣議決定より抜粋)

 

環境の自浄能力とは何でしょうか?生態系の機能とは、生物多様性とは、これらの保全は「生物多様性の保全」という言葉でまとめられて国の施策として行われつつあるところです。その法的な根拠として、日本は1993年に生物多様性条約に締約しています。また、日本はこの条約の規定に従い、1995年に生物多様性国家戦略をたて、2002年には、それを改定し、新・生物多様性国家戦略を新たに作りました。

生物多様性とは、生物多様性条約によって、「すべての生物の間の変異性をいうものとし、種内の多様性(遺伝子の多様性)、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」と定義されています。

 

*生物多様性の保全  (以下は、生物多様性国家戦略参照)

地球上の生物は、誕生から約40億年の進化の歴史を経て、さまざまな環境に適応してきました。長い歴史の結果生み出された生物の多様性(遺伝子の多様性、種の多様性、生態系の多様性)は、それ自体として尊重すべき価値を持つものです。多様な生物は、生態系の中でそれぞれ役割を担って相互に影響しあい、人間の生存にとっても欠かすことのできない生態系のバランスを維持しています。また、多様な生物とそれを中心として構成される多様な生態系は、様々な恵みを人間にもたらすとともに、人間をはじめすべての生物の生存の基盤となっています。

 しかし、近年人間活動の影響により、生物種が激減したり、生態系が破壊され、自然の物質循環がみだされ、地球の自然環境が壊されつつあります。日本でも生物の多様性を保全するために、生物多様性保全国家戦略が作成されました。

 

次に、生物多様性を保全する五つの理念を紹介します。(以下は、新生物多様性国家戦略より抜粋)

 

生物多様性保全の理念

 生物多様性保全と持続可能な利用のための理念として、1人間生存の基盤、2世代を超えた安全性・効率性の基礎、3有用性の源泉、4豊かな文化の根源という4つの意味と5予防的順応的態度という基本的考え方をあげます。

 

人間生存の基盤

・・・・人間生存の基盤である環境は、こうした生物の多様性と自然の物質循環を基礎とする生態系が健全に維持されることにより成り立っています。多様な生物の数十億年にわたる光合成等によって大気の分子組成が出来上がっているなど生物多様性は地球環境の形成に大きくかかわってきました。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収、気温・湿度等の調節を通じた気候の安定化、土壌の形成、土砂流出の軽減、水源の涵養、水質の浄化など、様々な生態系の働きによって現在及び将来の人間の生存にとって欠かすことのできない基盤条件が整えられています.

2.世代を超えた安全性・効率性の基礎

多様性を尊重することは、適正な土地利用を行うことを通じて、トータルで長期的な安全性、効率性を保証することになります。・・・・生物多様性の保全と人間生活の安全性や効率性の向上は必ずしも対立する物ではなく、むしろ密接にかかわっていると考えられます.

 

3.有用性の源泉

 生物多様性は、社会、経済、科学、教育、芸術、レクレーションなど様々な観点から人間にとって有用な価値を持っています。私たちの生活は、農作物や魚介類などの食品ばかりでなく、多様な生物(遺伝子・種の多様性)を工業材料、医薬品、燃料などの資源として利用することによって成り立っています。・・・この価値には、現在はその価値がわかっていなくとも、バイオテクノロジー等の技術の進展によって将来、人類が生き延びていくために不可欠な医薬品や食料の開発などに役立つ可能性を有するといった潜在的な価値をも含んでいます。・・・・

 

4.豊かな文化の根源

 ・・・・地域の生物多様性とそれに根差した文化の多様性は、歴史的時間の中で育まれてきた地域の固有の資産といえます。今後の地域活性化、個性的な地域づくりを成功させるためには、こうした歴史的資産をうまく紡いで活かすとともに、次世代に継承していくことが重要な鍵となります。人口が集中し生物多様性が減少した都市では、近年身近な自然とのふれあいや自然地域での野性的な体験を渇望する住民が増えています。一方、日常的に自然と接触する機会がなく自然との付き合い方を知らない子ども達も増えています。人と自然との関係が希薄化したことが、精神的な不安定の生じる割合を高める一因になっているとの指摘もありますこのように生物多様性は、人間生活を豊穣なものとし、豊かな文化を形成するための根源となるものです。

 

5.予防的順応的態度

・・・人間と自然との調和ある共存を実現するための基本的考え方として、次のエコシステムアプローチの考え方をあげます。

@     人間は、生物、生態系のすべてはわかりえないものであることを認識し、常に謙虚に、そして慎重に行動することを基本としなければなりません。

A     人間がその構成要素となっている生態系は複雑で絶えず変化し続けているものであることを認識し、その構造と機能を維持できる範囲内で自然資源の管理と利用を順応的に行うことが原則です。・・・

B     科学的な知見に基づき、関係者すべてが広く自然的、社会的情報を共有し、社会的な選択として自然資源の管理と利用の方向性が決められる必要があります。・・・

 

                        以上

以下は土井の考察

環境学習において最も大切なことは、
人間も「自然の生態系あるいは、地球の生態系の一部」であるということを理解することです。人間は自然の恩恵によって生きています.食料はもとより、医薬品にいたるまで自然から得た物です.石油・石炭も元は動物・植物の遺体が化石化したものです.水・大気・土そして国土は自然の生態系によって維持されています.「人間が自然を大切にしなければならないのはごくあたりまえのことである」という概念は、こども達が小さいうちから身に付けておく必要があります。

環境基本計画にもあるように、人間の出す廃棄物{二酸化炭素やダイオキシン、プラスチックゴミ、有害化学物質(環境ホルモン)など}が多すぎて自然の浄化能力を超えて、物質循環が壊されて、多くの環境問題が起きています.人間は自然の物質循環を壊さずに生きてゆかねばなりません.

生物のプログラムでは、生物の種や生態系の多様性とその大切さがよくわかるように作っています。生物の多様性とその保全についてよく理解するには、小さいころから豊かな自然に実際に触れたり、自然の中で自然を相手にした体験が、その人の心の発達と自然理解のうえで大変重要になってきます。小学校低学年はもとより中学生になっても、自然体験は重要ですので、なるべく自然と触れ合える形をとることを提案します。また、自然の生態系が崩れてしまっている、街中での身近な自然の多様性の保全は、多様性が崩れてきているという警鐘を含めて、環境教育としての価値があります。