ヘルクレス座

 

 ヘルクレスは、ギリシャ神話に登場する英雄で、大神ゼウスとアルクメネの間に生まれました。ゼウスの后ヘラはゼウスの不倫に嫉妬して、赤ちゃんのヘルクレスに毒蛇を送りましたが、ヘルクレスは怪力で蛇を握り殺してしまいました。ヘルクレスが大人になった後もヘラののろいが続き、ヘルクレスの頭を狂わせて妻と子を殺させてしまいます。正気に戻ったヘルクレスは、つぐないのために12の難行を行うことになりました。12の難行中には、しし座、かに座、うしかい座、りゅう座などの動物が登場します。

 星座絵でヘルクレスが手に持っている3匹の蛇は、17世紀にドイツの天文学者ヘベリウスが作ったケルベルス座に由来します。ケルベルスは頭が三つで尾は蛇という地獄の番犬ですが、やがてヘルクレスに退治されます。

 私たちの太陽は、銀河系の中の一つの星にすぎません。太陽は銀河系の中を回っていて、太陽はヘルクレスの左手首のあたりに向けて運動しています。ヘルクレスのわき腹にある球状星団M13は、何万もの星の集まりです。

 

 左はM13球状星団

 

 こちらもヘルクレス座にある球状星団M92


ギリシャ神話  ヘルクレスは、メドゥーサを退治したことで有名なペルセウスのひ孫にあたります。

 

 ペルセウスが治めたミュケナイ国は、やがてペルセウスの子エレクトリュオンが治めるようになっていました。ミュケイナイの王女アルクメネ(ペルセウスの孫にあたる)は、婚約者とともにテバイ国へ追放されたのですが、そこで大神ゼウスの子供を宿してしまいます。そしてゼウスはこの次に産まれる赤ちゃんがペルセウス一族の長になる運命に定めました。

 ところが、ゼウスの不倫を知った后ヘラは、お産の女神の力を借りて同じペルセウス一族のステネロス王の子供を先に産まれさせたのです。この先に生まれた子供・エウリュステウスは後にヘルクレスに12の難行を命じることになります。

 アルクメネが産んだ男の子はアルケイデスと名づけられました。女神ヘラは憎いアルケイデスを殺すために毒蛇を送りました。しかし、赤ちゃんといえどもアルケイデスは神の子、怪力で2匹の蛇を絞め殺してしまいました。さらにアルケイデスは女神アテナのはからいで女神ヘラのお乳をもらいました。このとき、アルケイデスがあまりに強くお乳を吸ったので、ヘラの乳は飛び散って夜空にかかって天の川になったと言われます。英語で天の川のことをMilkyWayという。女神ヘラのお乳を飲んだアルケイデスは不死身になり、弓や戦車の使い方、音楽などを習って立派な若者に成長しました。ふたご座になっているカストルは武器の使い方を、いて座になっているケイローンは武術を教えたと伝えられています。

 アルケイデスは、やがてテバイ国のメガラ王女と結婚して子供に恵まれ、幸せに暮らしていました。しかし、女神ヘラの呪いが突然やってきました。ある日、正気を失ったアルケイデスは妻メガラと子供たちを殺してしまうのです。正気にもどって呆然としたアルケイデス。神アポロンの神託を受けると、「エウリュステウスに仕え、彼の与える試練を乗り越えよ」というものでした。この試練こそ、アルケイデスより先に生まれたエウリュステウスに打ち勝ち、ペルセウス一族の長となる道でした。そしてこのときからアルケイデスはヘラクレス(ヘラの栄光)と名のりました。

 以後、ヘラクレスは星座名であるヘルクレスと表記します。

 エウリュステウスはヘルクレスを嫌っていましたから、難しい仕事を命令しました。有名な12の難行です。

 

左はモナコ発行のヘルクレスの12の難行が描かれた切手

 

12の難行

1 ネメアの森のライオン退治

 ネメアのライオンは家畜のほかに人々も襲うので恐れられていました。このライオンは怪物テュホンの子孫にあたり、青銅のような硬い毛皮に守られていました。ヘルクレスが射た矢はことごとく跳ね返されてしまいました。剣もこん棒も歯が立たず、素手で戦うしかない。怪力でライオンをねじ伏せ、骨を砕いてしまいました。ライオンの毛皮をかぶって凱旋したヘルクレスにエウリュステウスはヒドラ退治を命ずるのでした。

このライオンはしし座になっています。またライオンがデザインされたネメアというブランドのワインがあります。

2 レルネーの沼のヒドラ退治

 レルネーの沼に棲むヒドラは、蛇の怪物。猛毒の体から吐く息を吸うと死んでしまいます。9つある頭は、切り落としても次から次へと新しい頭が生えてくる。さらに真ん中の頭は不死身というばけもの。ヘルクレスは次々とヒドラの頭を切り落としたものの、次から次へと再生する。このとき沼に潜んでいた巨大なカニがヒドラに味方してヘルクレスの足を挟もうとしたが、逆にヘルクレスに踏み潰されてしまいました。ヘルクレスが切ったヒドラの首の切り口をお供のイオラオスがたいまつで焼く作戦に出ました。これでやっと首の再生が止まり、最後の不死身の頭は大岩の下敷きにしてヒドラを退治しました。死んでもヒドラの毒は強力。ヘルクレスは矢にヒドラの猛毒を塗り、強力な武器にしました。

ヒドラは「うみへび座」に、ふみつぶされたカニは「かに座」になっています。

3 ケリュネイアの牝鹿を生け捕りにすること

 この鹿は牝鹿であるのに角を持ち、しかも黄金に輝いているという。女神アルテミスの聖なる獣であったこの鹿をひと目見た者は、その魅力に取り付かれ、どこまでも鹿を追ううちに行方不明になってしまう運命にあった。ヘルクレスは1年も鹿を追い続け、鹿が疲れたところを生け捕りにしたという。

4 エリュマントスのイノシシ退治

 この巨大なイノシシは、作物のほかに人々を襲うことで恐れられていました。ヘルクレスはイノシシが動けなくなるまで追いかけ続けて生け捕りにしたということです。エリュマントス山へ向かう途中、ヘルクレスは半人半馬のケンタウロス族の争いに巻き込まれます。そのときヘルクレスが放った矢がケイローンというケンタウロス族に当たりました。ケイローンは、ヘルクレスの矢に塗られたヒドラの猛毒に苦しみますが、不死身であるために死ねません。永遠に苦しみ続けなければならないので、ヘルクレスに不死身をかわってくれる者を探してくれるように頼むのでした。(ケイローンはいて座になっている。)

5 ステュムパリデスの怪鳥退治

 ステュムバロス湖には軍神アレスが育てた怪鳥が何百万羽も棲んでいた。この鳥はひどい鳴き声だけでなく、鉄の翼とくちばしで人々を襲うので恐れられていた。ヘルクレスは得意の矢で次々と射落とし始めたが、無数にあるのでらちがあかない。女神アテナは、ヘパイストスが作った青銅の鳥追い道具をヘルクレスに授けた。ヘルクレスが怪力でそれをうち振ると、天が割れるほどの音がガラガラと鳴り響き、驚いた怪鳥どもはいっせいに飛び立った。そこをヘルクレスが得意の矢で射たものだから怪鳥たちは恐れをなして二度とここに寄り付かなくなった。

6 アウゲイアス王の家畜小屋掃除

 アウゲイアス王は3000頭の牛を飼っていました。その家畜小屋は30年間掃除されていなかったのですが、これを1日で掃除せよという命令。ヘルクレスは全部の牛を小屋から出すと、小屋の壁に大穴をあけた。そして川の水を一気に小屋の中に流し込んで、掃除を完了した。

7 クレタの荒れ狂う牛をとらえる

 ある日、クレタ島の海岸に美しい牛が現れた。ここのミノス王は、その牛を海神ポセイドンに捧げることにしていたが、あまりに美しい牛であったので、別の牛を生贄に差し出した。それがポセイドンの怒りに触れました。その美しい牛は、凶暴な牛に変身。町中を荒らしまわり始めたのだった。ヘルクレスは怪力で牛を捕らえたのだった。この牛がミノス王のパーシパエ王妃と交わってできたミノタウロスは、頭が牛、体が人間という怪物。怪物はミノス島の地下の迷宮に閉じ込められ、9年に一度、アテネから7人の少年と少女が生贄に送られるようになるのですが....この話は「かんむり座」の神話へ。

8 ディオメデスの人食い馬をとらえる

 トラキアの王・ディオメデスが飼っている4頭の牝馬は、鼻から火を噴く凶暴な馬。しかも死人の肉で育てられたので、人食い馬となっていた。ヘルクレスは、ディオメデスを馬のかいば桶に放り込み、馬が満腹になったところを見はからって生け捕りにした。

9 アマゾン国の女王の帯を奪う

 アマゾン国は女兵士だけの国。この国では男の子が生まれると、殺してしまうか他国へやってしまう。女兵士は弓を射るとき右の乳房が邪魔になるので切り落としたということで、ア・マゾンとは「乳房の無い」という意味だそうだ。男がこの国に入ること許されるのは1年に1回だけ。ヘルクレスはうまいぐあいに入国して女王ヒポリテスの金の腰帯を手に入れた。この帯は軍神アレスが与えたものであった。だが、天から見ていた女神ヘラは、アマゾン国にヘルクレスは女王をさらいにきたという噂を流した。それで争いが起き、とうとうヘルクレスはヒポリテスを殺してしまうのだが.....とにかく帯は手に入れた。

10 ゲリュオンの牛を奪う

 ゲリュオンは頭が3つ,体が3つという怪物。西の果ての国で赤い牛を飼っていたが、そこは歩いてゆけない遠い国であった。ヘルクレスはヘリオスから借りた黄金の船で西をめざした。今でも地中海の西の果て、ジブラルタル海峡にはヘルクレスの門という岩があるが、ヘルクレスが記念に立てた柱だという。上陸したヘルクレスは番犬とゲリュオンを退治し、牛を持ち帰った。

11 ヘスペリデスの黄金のリンゴをとる

 黄金のリンゴの木は、女神ヘラが大神ゼウスの后になったときにお祝いに贈られた木です。その木は、地の果てヘスペリデスの花園にあって、火を噴く竜が守っているということです(この竜はりゅう座になっている)。ヘルクレスは妖精や老人に聞いて、ヘスペリデスはアトラスの国にあることを知ります。ヘルクレスは、アトラスの国へ行く途中で、岩山に鎖で縛り付けられワシに腹を突かれている人に出会いました。彼こそ人類に火を与えた罪で3万年にわたって毎日、鷲に肝臓をついばまれて苦痛に耐えているプロメテウスだったのです。プロメテウスが自由になれるのは、不死身のものがプロメテウスに代わって冥界へ行くこと。そうだ、ヘルクレスの毒矢があたって苦しみ続けているケイローンこそ身代わりになれる。ヘルクレスがプロメテウスを助けた瞬間に、ケイローンは毒矢の苦しみから逃れられたのでした。

 さて、ヘルクレスは、ヘスペリデスに来たが、巨大な竜がリンゴを守っていてこれは手ごわそうだ。ちょうど近くで天を支えているアトラスに事情を話すと、天を支えることを肩代わりしてくれたらリンゴをとってきてやるという。怪力ヘルクレスの方に天は少々重いが堪えねばならない。アトラスはリンゴを守っている竜を妖精達に眠らせてもらって簡単にリンゴを取りました。

 肩の荷がおりて自由になったアトラスは、天をかつぐ仕事をしばらくヘルクレスに続けてもらおうと思い、黄金のリンゴをエウリュステウスに届けてやろうと言いました。重い天を担ぎ続けるのは怪力ヘルクレスにとっても大変です。ちょっと首の向きをなおす間だけ天を持ってほしいと言って、アトラスに天を返したスキにヘルクレスは黄金のリンゴを持って走り去りました。

 アトラスは「うしかい座」のモデルです。

12 地獄の番犬ケルベロスを連れてくる

 ケルベロスは頭が3つある地獄の番犬ですが、地獄へは死ななければ行けません。ヘルクレスは、アテナ,デーメーテール,ヘルメスに助けられて冥界へ行きました。冥界の王・ハデスは、ケルベロスが人を襲うかもしれないと警告しました。ヘルクレスは怪力で怪物を押さえつけ、エウリュステウスの前へ連れて行きました。エウリュステウスは、こんな怖い地獄の番犬を見るのもイヤ。大きな壷にかくれてしまいました。そして、ヘルクレスの勝利を認めました。

 

英雄の最後

 このあと、ヘルクレスはディアネイラと結婚したのだが....。あるとき、ヘルクレスとディアネイラが川を渡ろうとしていると、ケンタウロス族のネッソスがディアネイラを背中に乗せて川を渡してやろうと言いました。ところが、ネッソスはディアネイラをさらおうと、別の方へ走り始めました。ヘルクレスはネッソスを射てディアネイラを助けました。ネッソスは、「私の血をとっておいて、夫の下着に塗ると、夫の愛をいつまでも受け続けるであろう。」とディアネイラに告げてから息をひきとりました。

 ヘルクレスとディアネイラは、トラキアで平和に暮らしていました。しかし数年後、ヘルクレスが儀式を行うときに新しい下着が必要になりました。ディアネイラはネッソスの言葉を思い出して、とってあった血を湯でといて下着にしみ込ませました。ヘルクレスがその下着を身に着けると、突然ヘルクレスは苦しみ始めました。下着が彼の体にぴったりくっつき、体中が焼けるように痛みます。そして下着を脱ごうとしても、皮膚が下着についてはがれてきます。下着はますますヘルクレスの体を締め付けます。ヒドラの毒が混じった血はヘルクレスをも苦しめます。過ちを恥じたディアネイラは自害しました。苦しみつづけるヘルクレスは不死身の体。毒矢に苦しんだケイローンのように死ぬことはできません。ヘルクレスは、体が無くなれば痛みも消えると、オイタ山の頂きにたき木を積み上げ、自ら横たわりました。そして炎に焼かれて苦痛から逃れることができました。

 これを見ていた大神ゼウスは、ヘルクレスを天に上げました。

ストーリーは、里中満智子の「ギリシャ神話」などから書きました。